黒後家蜘蛛の会
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
黒後家蜘蛛の会(くろごけぐものかい、the Black Widowers)は、架空の団体。および、その団体の例会を舞台としたアイザック・アシモフによる短編推理小説シリーズの名称。
目次
概要[編集]
ニューヨークのミラノ・レストランで月1回、「黒後家蜘蛛の会」という名の例会が催される。レギュラー・メンバーは化学者、数学者、弁護士、画家、作家、暗号専門家の6名で、ヘンリーという初老の男性が給仕を務める。例会のホストはメンバーが交代で務め、招待した1名のゲストを交えて会食をする。折りを見て、ホストはグラスをスプーンで打ち鳴らし、ゲストに対し「あなたは何をもって自身の存在を正当としますか?(英語: How do you justify your existence?)」という定型の尋問をする。四方山話に興じるうちに次第に話題が謎めいてくると、活気づいたメンバーが各々の知識を動員して議論を繰り広げるが、袋小路に陥る一歩手前で、それまでの会話を聞いていたヘンリーが真相にたどり着く。
「黒後家蜘蛛の会」は、ニューヨークに実在し、アシモフも名を連ねていた男性のSF関係者の集いである Trap Door Spiders をモデルにしている。
メンバー[編集]
声優は、1981年にNHKでラジオドラマとして放送された際の配役。
- ジェフリー・アヴァロン (Geoffrey Avalon) - 作家のL・スプレイグ・ディ・キャンプがモデル
- 声優 - 納谷悟朗
- 特許弁護士。身長74インチ(約188センチメートル)。刈り整えた頬と顎の髭は白くなったが頭髪は黒々としている。声はバリトン。几帳面な性格で、例会での飲酒量はグラスに1杯半のみと決めている。最古参のメンバー。
- トーマス・トランブル (Thomas Trumbull) - ジャーナリストのギルバート・キャントがモデル
- 声優 - 中村正
- 暗号専門家。政府の情報機関に勤務。いつもしかめ面をしている。食前酒の時間に遅れるのが常で、その際に大げさな言い回しでヘンリーにスコッチのソーダ割りを注文する。最古参のメンバー。
- イマニュエル・ルービン (Emmanuel Rubin) - 作家・編集者のレスター・デル・リーがモデル
- 声優 - 小林修
- 作家。マンハッタン在住。アイザック・アシモフの友人を自称する。身長5フィート4インチ(約162.5センチメートル)。度の強い眼鏡をかけ、顎髭を蓄えている。レバーが苦手。
- ジェイムズ・ドレイク (James Drake) - 科学者・作家のジョン・D・クラークがモデル
- 声優 - 大塚周夫
- 有機化学者。四角く細長い顔に口髭を生やしている。三文小説を好む。愛煙家だが、よく自分の煙草にむせる。例会には真っ先に駆けつける最古参のメンバー。
- マリオ・ゴンザロ (Mario Gonzalo) - 作家・編集者のリン・カーターがモデル
- 声優 - 野沢那智
- 画家。テレピン油の匂いを漂わせている。毎回メニューの裏にゲストの似顔絵を描く。ベストドレッサー。
- ロジャー・ホルステッド (Roger Halsted) - 作家・編集者のドナルド・R・ベンセンがモデル
- 声優 - 金内吉男
- 数学者。中学校教師。額が広く、頭髪もかなり薄くなっている。リメリックに凝っている。
- ヘンリー (Henry)
- 声優 - 久米明
- ミラノ・レストランの給仕。60代だが顔には皺ひとつない。慇懃かつ沈着冷静な人物。
- ラルフ・オッター (Ralph Ottur) - 作家のフレッチャー・プラットがモデル。
- 会の創設メンバー。案内状は送付されているものの、現在では例会に姿を見せることはない。
- 最初の2年間はラルフの自宅で会が催されていた。「不毛なる者へ (To the Barest)」に登場するが、故人であったことが判明する。
推理小説[編集]
1972年2月号の『EQMM(エラリー・クイーンズ・ミステリ・マガジン)』誌に、第一作『会心の笑い』が発表された。その後断続的に、晩年に至るまで発表された。
『黒後家蜘蛛の会』は、ほぼ純粋なパズル・ストーリーであり、殺人事件さえめったに起こらない。題材は、盗まれた物は何かとか、遺産を得るための暗号の解読とか、忘れてしまった地名の推測などの、より日常的な問題である。解決にはヘンリーの(つまりアシモフの)該博な知識が使われる。ヘンリーは代表的な安楽椅子探偵の一人である。
『黒後家蜘蛛の会』は全て短編で、計66作が書かれた。うち60作は5冊の短編集として出版され(邦訳あり)、残りの6作はアシモフの死後、"The Return of the Black Widowers"(2003年)にまとめられた。
短編集[編集]
黒後家蜘蛛の会1[編集]
en:Tales of the Black Widowers
以下は、日本語版の情報。
ISBN 4-488-16701-2 翻訳:池央耿、解説:池央耿
- まえがき
- 会心の笑い (The Acquisitive Chuckle)
- 贋物(Phony)のPh (Ph as in Phony)
- 実を言えば (Truth to Tell)
- 行け、小さき書物よ (Go, Little Book!)
- 日曜の朝早く (Early Sunday Morning)
- 明白な要素 (The Obvious Factor)
- 指し示す指 (The Pointing Finger)
- 何国代表? (Miss What?)
- ブロードウェーの子守歌 (The Lullaby of Broadway)
- ヤンキー・ドゥードゥル都へ行く (Yankee Doodle Went to Town)
- 不思議な省略 (The Curious Omission)
- 死角 (Out of Sight)
黒後家蜘蛛の会2[編集]
en:More Tales of the Black Widowers
以下は、日本語版の情報。
ISBN 4-488-16702-0 翻訳:池央耿、解説:池央耿
- まえがき
- 追われてもいないのに (When No Man Pursueth)
- 電光石火 (Quicker Than the Eye)
- 鉄の宝玉 (The Iron Gem)
- 三つの数字 (The Three Numbers)
- 殺しの噂 (Nothing Like Murder)
- 禁煙 (No Smoking)
- 時候の挨拶 (Season's Greetings!)
- 東は東 (The One and Only East)
- 地球が沈んで宵の明星が輝く (Earthset and Evening Star)
- 十三日金曜日 (Friday the Thirteenth)
- 省略なし (The Unabridged)
- 終局的犯罪 (The Ultimate Crime)
黒後家蜘蛛の会3[編集]
en:Casebook of the Black Widowers
以下は、日本語版の情報。
ISBN 4-488-16703-9 翻訳:池央耿、解説:池央耿
- まえがき
- ロレーヌの十字架 (The Cross of Lorraine)
- 家庭人 (The Family Man)
- スポーツ欄 (The Sports page)
- 史上第二位 (Second Best)
- 欠けているもの (The Missing Item)
- その翌日 (The Next Day)
- 見当違い (Irrelevance!)
- よくよく見れば (None So Blind)
- かえりみすれば (The Backward Look)
- 犯行時刻 (What Time Is Is?)
- ミドル・ネーム (Middle Name)
- 不毛なる者へ (To the Barest)
黒後家蜘蛛の会4[編集]
en:Banquets of the Black Widowers
以下は、日本語版の情報。
ISBN 4-488-16705-5 翻訳:池央耿、解説:鮎川哲也
- まえがき
- 六千四百京の組み合わせ (Sixty Million Trillion Combinations)
- バーにいた女 (The Woman in the Bar)
- 運転手 (The Driver)
- よきサマリア人 (The Good Samaritan)
- ミカドの時代 (The Year of the Action)
- 証明できますか? (Can You Prove It?)
- フェニキアの金杯 (The Phoenician Bauble)
- 四月の月曜日 (A Monday in April)
- 獣でなく人でなく (Neither Brute Nor Human)
- 赤毛 (The Redhead)
- 帰ってみれば (The Wrong House)
- 飛び入り (The Intrusion)
黒後家蜘蛛の会5[編集]
en:Puzzles of the Black Widowers
以下は、日本語版の情報。
ISBN 978-4-488-16708-0 翻訳:池央耿、解説:有栖川有栖
- まえがき
- 同音異義 (The Fourth Homonym)
- 目の付けどころ (Unique Is Where You Find It)
- 幸運のお守り (The Lucky Piece)
- 三重の悪魔 (Triple Devil)
- 水上の夕映え (Sunset On the Water)
- 待てど暮らせど (Where Is He?)
- ひったくり (The Old Purse)
- 静かな場所 (The Quiet Place)
- 四葉のクローバー (The Four-Leaf Clover)
- 封筒 (The Envelope)
- アリバイ (The Alibi)
- 秘伝 (The Recipe)
(The Return of the Black Widowers)[編集]
en:The Return of the Black Widowers
日本語訳の書籍は未出版。
短編が推理小説誌に個別に邦訳されている。下記の邦題は、その時のもの。特に記載がないものは、池央耿訳、EQMM誌掲載。
- Introduction (ハーラン・エリスン著)
- The Acquisitive Chuckle (Tales of the Black Widowersより再録)
- Early Sunday Morning (Tales of the Black Widowersより再録)
- The Obvious Factor (Tales of the Black Widowersより再録)
- The Iron Gem (More Tales of the Black Widowersより再録)
- To the Barest (Casebook of the Black Widowersより再録)
- Sixty Million Trillion Combinations (Banquets of the Black Widowersより再録)
- The Wrong House (Banquets of the Black Widowersより再録)
- The Redhead (Banquets of the Black Widowersより再録)
- Triple Devil (Puzzles of the Black Widowersより再録)
- アイザック・アシモフを読んだ男たち (The Men Who Read Isaac Asimov) ウイリアム・ブルテン著 森英俊訳『ジョン・ディクスン・カーを読んだ男』(論創社)収録 - 「黒後家ファン・クラブ」池央耿訳、EQMM1978年11月号掲載
- 黒後家蜘蛛とバットマン (Northwestward) 佐脇洋平訳 『バットマンの冒険 2』(社会思想社、ISBN 978-4390113168 )に収録
- さはさりながら (Yes, But Why) 『ミステリマガジン1990年11月号(415号)』(早川書房)掲載
- スペースワープ (Lost In a Space Warp)
- 警官隊がやってきた (Police at the Door)
- 幽霊屋敷 (The Haunted Cabin)
- ゲストのゲスト (The Guest's Guest)
- The Woman in the Bar (Banquets of the Black Widowersより再録)
- 黒後家蜘蛛の会最後の物語 (The Last Story)(チャールズ・アーダイ著)田中一江訳 『ミステリマガジン2007年5月号(615号)』(早川書房)掲載
- Afterword
関連[編集]
- ユニオン・クラブ奇談 - アイザック・アシモフによる推理パズル・ストーリー。全体的な構成やトリックは『黒後家蜘蛛の会』と似ているため、アイディアを使うという点で2作は競合関係にあり、『ユニオン・クラブ』執筆中は『黒後家』の執筆は進まなかった。
|