1958年のロードレース世界選手権

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
1958年の
FIMロードレース世界選手権
前年: 1957 翌年: 1959

1958年のロードレース世界選手権は、FIMロードレース世界選手権の第10回大会である。6月にマン島で開幕し、イタリアモンツァで開催された最終戦まで、全7戦で争われた。

シーズン概要[編集]

この年からスウェーデンGPが世界選手権の1戦に新たに加わって全7戦となった。毎年開催地が変更されているドイツGPは、この年はニュルブルクリンクの北コースが舞台となった。

車両規定の変更によってこの年から手首以外のライダーの全身と前後のホイールが横から見えていなければならないとされた。また、カウリングを装着する場合は前端がフロントアクスルの50mm前まで(後に100mm前までに変更)とされ、このために前年までのマシン全体を覆うダスドビン・フェアリングは姿を消した[1]。代わってステアリングヘッド周りとエンジン部分だけを覆う小さなカウリングが装着され、マシンの外観は現在のレーシングマシンに近いものとなった。

この年のグランプリは結果としてMVアグスタが全クラスを制することになったが、500cc/350ccクラスと250cc/125ccクラスでは些か状況が異なっていた。ヨーロッパにおけるオートバイ市場の冷え込みを理由に前年をもってジレラモト・グッツィモンディアルといったイタリアの大メーカーがグランプリから撤退し、オートバイ以外にヘリコプター販売という資金源を持っておりレース活動はオーナーのアグスタ伯爵の個人的なプロジェクトという色合いが強かったMVアグスタだけがこの年以降も活動を継続したため、大排気量クラスでは有力なファクトリーがMVアグスタだけという状況になった[2]。対照的に125ccや250ccクラスではモリーニドゥカティといった新たなチャレンジャーが現れ、MVアグスタに挑んだ。中でも東ドイツの小メーカーであるMZは、1952年DKWのマシンが1勝したきりでそれ以降は問題にならないとされていた2ストロークエンジンがグランプリでも勝てることを証明した。エンジニアのヴァルター・カーデンの手による最新の理論に裏づけられたMZの2ストロークの速さは、後の日本製GPマシンに大きな影響を与えることとなる[3]

ゲイリー・ホッキングマイク・ヘイルウッドという後のワールドチャンピオンがこの年グランプリデビューを飾り、両者とも早くも表彰台に登っている。その一方、前年の350ccクラスチャンピオンであるキース・キャンベルは、ベルギーGPの1週間後にフランスのカドゥール・サーキットで行われたノン・タイトルのレースで命を落とした[4]

500ccクラス[編集]

唯一のファクトリーチームとなったMVアグスタにライバルは存在せず、ジョン・サーティースは出場しなかったスウェーデンGP以外の全てのレースに勝利して1956年に続く2度目の500ccクラスタイトルを決めた。チームメイトであるジョン・ハートルも4度表彰台に登る速さでサーティースをサポートし、ランキング2位を獲得した[5]

前年までMVアグスタ以外のイタリアのファクトリーで走っていたライダーは、その多くがノートンの市販マシンに乗り換えた。かつてのチャンピオンのジェフ・デュークもシーズン前半はBMWで戦ったが後半はノートンに乗り、スウェーデンでこの年サーティース以外で勝利した唯一のライダーとなった。これはデュークにとってグランプリ通算33勝目であると同時に最後のグランプリ優勝だった[4]

前年にその存在を公表されたMVアグスタの6気筒は、この年のイタリアでジョン・ハートルの手によって実戦デビューを飾った。レースでは最後尾スタートとなったものの一時は4位まで追い上げるスピードを見せたがトラブルによってリタイヤとなり、その後はサーキットに姿を見せることはなかった。

350ccクラス[編集]

唯一のファクトリーであるMVアグスタジョン・サーティースが出場した全てのレースで勝ち、MVアグスタが不出場だったスウェーデンGPではノートンの市販マシンに乗るジェフ・デュークが勝利するという、500ccクラスと全く同じ展開となった[6]。サーティースは、500ccクラスと併せてこの年出場した全てのグランプリで優勝したことになる。サーティースとともにMVアグスタに乗るジョン・ハートルがサーティースに次いで多く表彰台に立ち、ランキング2位を獲得したのも500ccクラスと同様だった。長い間ノートンやモト・グッツィの単気筒が制してきた350ccクラスで、多気筒エンジンのマシンによるタイトル獲得はこの年のMVアグスタが初めてである[4]

250ccクラス[編集]

MVアグスタは小排気量クラスにはカルロ・ウビアリに加えて前年までモンディアルのライダーだったタルクィニオ・プロヴィーニを乗せ、250ccクラスはプロヴィーニにタイトルを獲らせる戦略を採った[4]。プロヴィーニは期待に応えて開幕戦から3連勝を飾り、第5戦のアルスターGPで4勝目を挙げてタイトルを決めた[7]

東ドイツのホルスト・フュグナーは速さはあるものの神経質で壊れやすいMZ2ストロークを巧みに操り、スウェーデンでは自身とMZにとっての初勝利を挙げるとランキングでも2台のMVアグスタの間に割って入る2位を獲得した。フュグナーの活躍によって、外国のライダーたちもMZに乗ることに興味を示し始めた[3]

開幕戦のマン島ではマイク・ヘイルウッドが初めてのグランプリで3位表彰台を獲得した。この時ヘイルウッドは18歳で、乗っていたのは市販のNSUだった。また最終戦のモンツァではモリーニの新型マシンがデビューし、エミリオ・メンドーニとジャンピエロ・ツヴァーニによってデビュー戦でワンツーフィニッシュという快挙を成し遂げた[3]

125ccクラス[編集]

MVアグスタは125ccクラスでは250ccクラスとは逆にカルロ・ウビアリにタイトルを狙わせ、タルクィニオ・プロヴィーニにはサポートに回らせた。開幕戦では思惑通りウビアリが優勝したが、2位・3位に入ったのはこの年からフル参戦を開始したドゥカティのロモロ・フェリとデイブ・チャドウィックだった。ドゥカティにとってはこれがグランプリ初表彰台である。その後もシーズンをリードするウビアリをドゥカティ勢が追いかける展開が続き、第3戦のドイツではアルベルト・ガンドッシがドゥカティにグランプリ初優勝をもたらした。タイトル争いは終盤のアルスターGPでウビアリが4勝目を挙げて決着し、2勝を挙げたガンドッシと3度の2位入賞を果たしたルイジ・タベリというドゥカティの2人が、プロヴィーニを押さえてランキング2位、3位を獲得した[3][8]

MZ2ストロークはこのクラスでもエルンスト・デグナーとホルスト・フュグナーによってコンスタントに入賞を果たし、ドイツGPではデグナーが3位表彰台を獲得している。

グランプリ[編集]

Rd. 決勝日 GP サーキット 125ccクラス優勝 250ccクラス優勝 350ccクラス優勝 500ccクラス優勝 レポート
1 6月6日 マン島の旗 マン島TT マン島 イタリアの旗 C.ウビアリ イタリアの旗 T.プロヴィーニ イギリスの旗 J.サーティース イギリスの旗 J.サーティース 詳細
2 6月28日 オランダの旗 ダッチTT アッセン イタリアの旗 C.ウビアリ イタリアの旗 T.プロヴィーニ イギリスの旗 J.サーティース イギリスの旗 J.サーティース 詳細
3 7月6日 ベルギーの旗 ベルギーGP スパ イタリアの旗 A.ガンドッシ No Race イギリスの旗 J.サーティース イギリスの旗 J.サーティース 詳細
4 7月20日 ドイツの旗 ドイツGP ニュルブルクリンク イタリアの旗 C.ウビアリ イタリアの旗 T.プロヴィーニ イギリスの旗 J.サーティース イギリスの旗 J.サーティース 詳細
5 7月27日 スウェーデンの旗 スウェーデンGP ヘデモーラ イタリアの旗 A.ガンドッシ ドイツの旗 H.フュグナー イギリスの旗 G.デューク イギリスの旗 G.デューク 詳細
6 8月9日 北アイルランドの旗 アルスターGP ダンドロッド イタリアの旗 C.ウビアリ イタリアの旗 T.プロヴィーニ イギリスの旗 J.サーティース イギリスの旗 J.サーティース 詳細
7 9月14日 イタリアの旗 イタリアGP モンツァ イタリアの旗 B.スパッジャーリ イタリアの旗 E.メンドーニ イギリスの旗 J.サーティース イギリスの旗 J.サーティース 詳細

最終成績[編集]

ポイントシステム
順位 1 2 3 4 5 6
ポイント 8 6 4 3 2 1
  • 全クラスで上位入賞した4戦分のポイントが有効とされた。
  • 凡例

500ccクラス順位[編集]

順位 ライダー マシン IOM
マン島の旗
NED
オランダの旗
BEL
ベルギーの旗
GER
ドイツの旗
SWE
スウェーデンの旗
ULS
北アイルランドの旗
ITA
イタリアの旗
有効ポイント 合計ポイント 勝利数
1 イギリスの旗 ジョン・サーティース MVアグスタ 1 1 1 1 - 1 1 32 48 6
2 イギリスの旗 ジョン・ハートル MVアグスタ - 2 3 2 - 3 - 20 0
3 イギリスの旗 ジェフ・デューク BMW - - 4 - - - - 13 1
ノートン - - - - 1 5 -
4 イギリスの旗 ディッキー・デイル BMW - 5 5 5 2 6 4 13 16 0
5 イギリスの旗 デレク・ミンター ノートン 4 3 - - - 4 - 10 0
6 イギリス領ローデシアの旗 ゲイリー・ホッキング ノートン - 6 - 3 4 - - 8 0
7 ドイツの旗 エルンスト・ヒラー BMW - 4 - 4 5 - - 8 0
8 イギリスの旗 ボブ・アンダーソン ノートン 2 - 6 - - - - 7 0
9 オーストラリアの旗 キース・キャンベル ノートン - - 2 - - - - 6 0
9 イギリスの旗 ボブ・マッキンタイヤ ノートン - - - - - 2 - 6 0
9 イタリアの旗 レモ・ベンチューリ MVアグスタ - - - - - - 2 6 0
12 オーストラリアの旗 ボブ・ブラウン ノートン 3 - - 6 6 - - 6 0
13 イギリスの旗 テリー・シェパード ノートン - - - - 3 - - 4 0
13 イタリアの旗 ウンベルト・マセッティ MVアグスタ - - - - - - 3 4 0
15 イギリスの旗 デイブ・チャドウィック ノートン 5 - - - - - 6 3 0
16 イタリアの旗 カルロ・バンディローラ MVアグスタ - - - - - - 5 2 0
17 ニュージーランドの旗 ジョン・アンダーソン ノートン 6 - - - - - - 1 0

350ccクラス順位[編集]

順位 ライダー マシン IOM
マン島の旗
NED
オランダの旗
BEL
ベルギーの旗
GER
ドイツの旗
SWE
スウェーデンの旗
ULS
北アイルランドの旗
ITA
イタリアの旗
有効ポイント 合計ポイント 勝利数
1 イギリスの旗 ジョン・サーティース MVアグスタ 1 1 1 1 - 1 1 32 48 6
2 イギリスの旗 ジョン・ハートル MVアグスタ - 2 2 2 - 2 2 24 30 0
3 イギリスの旗 ジェフ・デューク ノートン - - 5 - 1 4 3 17 1
4 イギリスの旗 デイブ・チャドウィック ノートン 2 - 6 3 - - 5 13 0
5 イギリスの旗 ボブ・アンダーソン ノートン - - - 5 2 - 4 11 0
6 イギリスの旗 マイク・ヘイルウッド ノートン - 5 - 4 3 - - 9 0
7 オーストラリアの旗 キース・キャンベル ノートン - 3 3 - - - - 8 0
8 イギリスの旗 テリー・シェパード ノートン 4 - - - - 3 - 7 0
8 イギリスの旗 デレク・ミンター ノートン - 4 4 - - 6 - 7 0
10 イギリスの旗 ジェフリー・ターナー ノートン 3 - - - - - - 4 0
11 イギリスの旗 アラン・トロー ノートン - - - - 4 - - 3 0
12 イギリスの旗 ジョージ・キャトリン ノートン 5 - - - - - - 2 0
12 イギリスの旗 ジェフ・モンティ ノートン - - - - 5 - - 2 0
12 イギリスの旗 ボブ・マッキンタイヤ ノートン - - - - - 5 - 2 0
15 イギリスの旗 アリステア・キング ノートン 6 - - - - - - 1 0
15 スイスの旗 ルイジ・タベリ ノートン - 6 - - - - - 1 0
15 イギリスの旗 ディッキー・デイル ノートン - - - 6 - - - 1 0
15 アイルランドの旗 マイク・オルーク ノートン - - - - 6 - - 1 0
15 オーストラリアの旗 ボブ・ブラウン AJS - - - - - - 6 1 0

250ccクラス順位[編集]

順位 ライダー マシン IOM
マン島の旗
NED
オランダの旗
GER
ドイツの旗
SWE
スウェーデンの旗
ULS
北アイルランドの旗
ITA
イタリアの旗
有効ポイント 合計ポイント 勝利数
1 イタリアの旗 タルクィニオ・プロヴィーニ MVアグスタ 1 1 1 - 1 - 32 4
2 東ドイツの旗 ホルスト・フュグナー MZ - - 2 1 5 - 16 1
3 イタリアの旗 カルロ・ウビアリ MVアグスタ 2 2 - - - 3 16 0
4 イギリスの旗 マイク・ヘイルウッド NSU 3 4 - 2 - - 13 0
5 ドイツの旗 ディーター・ファルク アドラー 5 3 3 - - 6 11 0
6 イタリアの旗 エミリオ・メンドーニ モリーニ - - - - - 1 8 1
7 アイルランドの旗 トミー・ロブ NSU - - - - 2 - 6 0
7 イタリアの旗 ジャンピエロ・ツヴァーニ モリーニ - - - - - 2 6 0
9 ドイツの旗 ギュンター・ビア アドラー - - - 4 - 4 6 0
10 イギリスの旗 ジェフ・モンティ NSU - - - 3 - - 4 0
10 イギリスの旗 デイブ・チャドウィック MVアグスタ - - - - 3 - 4 0
12 ドイツの旗 ホルスト・カスナー NSU - 6 4 - - - 4 0
13 オーストリアの旗 ヨゼフ・オートングルーバー NSU - - - 5 - 5 4 0
14 イギリスの旗 クライブ・ブラウン NSU 4 - - - - - 3 0
14 東ドイツの旗 エルンスト・デグナー MZ - - - - 4 - 3 0
16 イギリスの旗 アーサー・ウィラー モンディアル - 5 - - - - 2 0
16 ドイツの旗 クサヴァー・ハイス NSU - - 5 - - - 2 0
18 アイルランドの旗 サミー・ミラー CZ 6 - - - - - 1 0
18 ドイツの旗 ワルター・ライヒェルト NSU - - 6 - - - 1 0
18 ドイツの旗 ウィルヘルム・レック DKW - - - 6 - - 1 0
18 イギリスの旗 ディッキー・デイル NSU - - - - 6 - 1 0

125ccクラス順位[編集]

順位 ライダー マシン IOM
マン島の旗
NED
オランダの旗
BEL
ベルギーの旗
GER
ドイツの旗
SWE
スウェーデンの旗
ULS
北アイルランドの旗
ITA
イタリアの旗
有効ポイント 合計ポイント 勝利数
1 イタリアの旗 カルロ・ウビアリ MVアグスタ 1 1 5 1 3 1 - 32 38 4
2 イタリアの旗 アルベルト・ガンドッシ ドゥカティ - 4 1 - 1 4 2 25 28 2
3 スイスの旗 ルイジ・タベリ ドゥカティ - 2 6 - 2 2 5 20 21 0
4 イタリアの旗 タルクィニオ・プロヴィーニ MVアグスタ - 3 3 2 4 - - 17 0
5 イギリスの旗 デイブ・チャドウィック ドゥカティ 3 5 4 - - 3 4 14 16 0
6 イタリアの旗 ロモロ・フェリ ドゥカティ 2 - 2 - - - - 12 0
7 東ドイツの旗 エルンスト・デグナー MZ 5 6 - 3 5 - - 9 0
8 イタリアの旗 ブルノ・スパッジャーリ ドゥカティ - - - - - - 1 8 1
9 東ドイツの旗 ホルスト・フュグナー MZ 6 - - 4 6 5 - 7 0
10 イタリアの旗 フランチェスコ・ヴィラ ドゥカティ - - - - - - 3 4 0
11 アイルランドの旗 サミー・ミラー ドゥカティ 4 - - - - - - 3 0
12 ドイツの旗 ワルター・ブレーメ MZ - - - 5 - - - 2 0
13 ドイツの旗 ヴェルナー・ムシオル MZ - - - 6 - - - 1 0
13 イギリスの旗 アーサー・ウィラー モンディアル - - - - - 6 - 1 0
13 イタリアの旗 エンツォ・ベッツァリーニ MVアグスタ - - - - - - 6 1 0

脚注[編集]

  1. ^ 『THE GRAND PRIX MOTORCYCLE』(p.46)
  2. ^ 『THE GRAND PRIX MOTORCYCLE』(p.41)
  3. ^ a b c d 『二輪グランプリ60年史』(p.49)
  4. ^ a b c d 『二輪グランプリ60年史』(p.46 - p.47)
  5. ^ 500cc World Standing 1958 - The Official MotoGP Website
  6. ^ 350cc World Standing 1958 - The Official MotoGP Website
  7. ^ 250cc World Standing 1958 - The Official MotoGP Website
  8. ^ 125cc World Standing 1958 - The Official MotoGP Website

参考文献[編集]

  • ジュリアン・ライダー / マーティン・レインズ『二輪グランプリ60年史』(2010年、スタジオ・タック・クリエイティブ)ISBN 978-4-88393-395-2
  • ケビン・キャメロン『THE GRAND PRIX MOTORCYCLE』(2010年、ウィック・ビジュアル・ビューロウ)ISBN 978-4-900843-57-8
  • マイケル・スコット『The 500cc World Champion』(2007年、ウィック・ビジュアル・ビューロウ)ISBN 978-4-900843-53-0