たいげい型潜水艦

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
検索に移動
たいげい型潜水艦
三菱重工業神戸工場で建造中の「たいげい」(2020年10月撮影)
三菱重工業神戸工場で建造中の「たいげい」(2020年10月撮影)
基本情報
種別 潜水艦
運用者  海上自衛隊
建造期間 2017年 -
就役期間 2022年(予定) -
前級 そうりゅう型
要目
基準排水量 約3,000トン
全長 84.0 m
最大幅 9.1 m
深さ 10.4 m
機関方式 ディーゼル・エレクトリック方式
推進器 スクリュープロペラ×1軸
出力 6,000馬力
速力 約20ノット
C4ISTAR
  • 情報処理サブシステムOYX-1
  • 潜水艦戦術状況表示装置ZQX-12
  • 潜水艦情報管理システム
  • 基幹ネットワークシステム
レーダー ZPS-6H
ソナー ZQQ-8 統合式
電子戦
対抗手段
NZLR-2 電波探知装置
テンプレートを表示

たいげい型潜水艦(たいげいがたせんすいかん、英語: Taigei-class submarine)は、海上自衛隊通常動力型潜水艦の艦級[1]。先行するそうりゅう型11・12番艦(27・28SS)と同様にリチウムイオン蓄電池を搭載するが、その性能を最大限に活用できるように設計を改訂するなどした発展型として、平成29年度計画より建造を開始した[2][3]ネームシップの建造費は約800億円[4][注 1]

来歴[編集]

海上自衛隊の潜水艦は、平成16年度予算での建造分より、2,900トン型(そうりゅう型)に移行した。これは先行する2,700トン型(おやしお型)をもとにした発展型で、特にスターリングエンジンによる非大気依存推進(AIP)システムを導入したことが注目された。同システムは高出力の発揮は望めないものの、シュノーケルを使用せずとも長期間潜航できることから、電池容量を温存できるようになり、従来よりもダイナミックな作戦行動を可能とするものと期待された[2][注 2]

一方、技術研究本部では、平成9年度より、次世代の潜水艦用蓄電池としてリチウムイオン蓄電池の開発に着手していた[3]。従来、潜水艦用蓄電池としては鉛蓄電池が用いられてきたが、リチウムイオン蓄電池は多くの優れた特性を備えており、潜水艦にとっては非常に望ましいものであった[7]。当初はそうりゅう型5番艦(20SS)[8]、次には23中期防初年度艦(23SS)からこれを導入することが検討されたが[9]、いずれも断念されて、新型潜水艦から導入されることになった[3]。これが本型である[4]。当初は平成28年度計画艦から新型化されるともみられていたが[9]、1年度先送りされて平成29年度計画艦となった[3]

ただし本型では他にも多くの新技術の導入が予定されていたこともあって、予算・工期の縮減や、リチウムイオン蓄電池の潜水艦搭載化のための技術的問題の解決などの観点から[3]、リチウムイオン蓄電池は、そうりゅう型11番艦(27SS)から先行して搭載されることなった[2]

設計[編集]

船体[編集]

本型は、27SS(2,950トン型)をもとに艦型を3,000トン型に拡大し、リチウムイオン蓄電池の搭載を前提に、最大限に能力を発揮できるように設計されている[2][注 3]

船体構造における新機軸が、浮架台の採用である。これは諸外国の潜水艦で採用が進みつつある浮き甲板(フローティング・デッキ)と同様の構造により、低雑音化・耐衝撃特性向上を図るものである[2]。技術研究本部では、音波吸収材や反射材の最適装備法等とともに「被探知防止・耐衝撃潜水艦構造の研究」として開発されており、平成19から23年度で試作、平成22から26度で試験が行われた[13][14]

また、潜水艦への女性自衛官配置制限の解除を受けて、居住区内に仕切り等を設けて女性用寝室を確保するとともに、シャワー室の通路にカーテンを設けるなど、女性自衛官の勤務に対応した艤装が行われている[1]

建造開始後も本型に関する研究開発は行われており、各種駆動装置から発生する雑音を低減する新型の駆動装置を開発する「潜水艦用静粛型駆動システムの研究」(平成30年度から令和3年度で研究試作、令和3・4年度で試験)が行われている[15][16]

機関[編集]

上記の経緯より、海上自衛隊では、そうりゅう型の11番艦である27SS「おうりゅう」よりリチウムイオン蓄電池を導入した。同艦はそうりゅう型に属するとはいえ、単に鉛蓄電池をリチウムイオン蓄電池に変更するだけでなく、同型の目玉装備だったはずのスターリングAIPシステムも廃止して、その分の容積・重量もリチウムイオン蓄電池の搭載に振り向けており、機関部の設計は大きく変化した。しかしその一方で、基本設計はあくまでそうりゅう型と同一であり、リチウムイオン蓄電池を最大限に活用できるようにはなっていなかった[2]

これに対し、本型では、基本設計の段階からリチウムイオン蓄電池の搭載を織り込んで、その特性を最大限に引き出すように配慮されている。このために実施されたのが「スノーケル発電システム」の開発で、平成22~26年度で試作、平成26・27年度で試験が行われた[17]。これは、大きな電流による継続的な充電に対応できるというリチウムイオン蓄電池の特性を最大限に活かして、従来より高出力かつ急激な負荷の変動に対応できるディーゼルエンジンおよび発電機とともに、給排気量の増大に対応したシュノーケル・マストを開発し、更にはその被探知防止対策までを含んだ、広範なシステムの開発であった[18]

装備[編集]

本型では、光ファイバー技術を用いた新型の高性能ソナーシステムを装備して、探知能力が向上している[4]。防衛省では、平成18年度より「次世代潜水艦用ソーナーの研究」に着手しており、平成21年度にかけて研究試作を実施したのち、平成20・21年度まで所内試験を実施した。これは艦首型アレイのコンフォーマル化および側面型アレイの吸音材一体面受波器化による開口拡大、光ファイバー受波アレイ技術による曳航型アレイの指向性補償処理による探知能力の向上、信号処理部における探知情報の自動統合アルゴリズムの構築等による異種ソナー間の探知情報自動統合化を図ったものであった[19][20]

兵装としては魚雷発射管を備えており、ここから発射する魚雷としては、最新の18式魚雷が見込まれている[4]

比較表[編集]

SS各型の比較
たいげい型 そうりゅう型 おやしお型
船体 基準排水量 3,000トン 2,900トン(5番艦以降50トン増) 2,750トン
水中排水量 不明 4,200トン 3,500トン
全長 84 m 82 m
全幅 9.1 m 8.9 m
吃水 10.4 m 8.5 m 7.4 m
主機 機関 ディーゼル+電動機 ディーゼル+スターリング+電動機(10番艦まで)
ディーゼル+電動機(11,12番艦)
ディーゼル+電動機
方式 ディーゼル・エレクトリック ディーゼル・スターリング・エレクトリック(10番艦まで)
ディーゼル・エレクトリック(11,12番艦)
ディーゼル・エレクトリック
出力 不明 水上3,900 ps / 水中8,000 ps(10番艦まで)
5,600 ps(11,12番艦)
水上3,400 ps / 水中7,700 ps
速力 水上13ノット / 水中20ノット(10番艦まで)
18ノット(11,12番艦)
水上12ノット / 水中20ノット
兵装 水雷 533mm魚雷発射管×6門(18式/89式魚雷ハープーンUSM
その他 不明 潜水艦魚雷防御システム(8番艦以降)
同型艦数 1隻艤装中、2隻建造中 11隻、1隻艤装中 11隻

同型艦[編集]

一覧表[編集]

艦番号 艦名 建造 起工 進水 竣工
SS-513 たいげい 三菱重工業
神戸造船所
2018年
(平成30年)
3月16日
2020年
(令和2年)
10月14日
2022年
(令和4年)
3月予定
SS-514 平成30年度計画
8129号艦
(30SS)
川崎重工業
神戸工場
2019年
(平成31年)
1月25日
2021年
(令和3年)
予定
2023年
(令和5年)
3月予定
SS-515 令和元年度計画
8130号艦
(01SS)
三菱重工業
神戸造船所
2020年度
(令和2年)
予定
2022年
(令和4年)
予定
2024年
(令和6年)
3月予定

運用史[編集]

ネームシップ平成29年度計画で建造されており、2020年10月14日に命名・進水式が行われた[4]。なお同艦は、「平成31年度以降に係る防衛計画の大綱について」に、建造中であるにもかかわらず試験潜水艦への種別変更予定が記載された[21]。これにより今まで通常の潜水艦が持ち回りで行った試験を専任の試験潜水艦が担当することで、他の潜水艦の稼働日数を増やすと共に試験完了の加速を目指す。

脚注[編集]

[脚注の使い方]

注釈[編集]

  1. ^ 建造予算は728億円とされていた[5]
  2. ^ このようにスターリングAIPシステムを導入する一方で、燃料電池を採用した「次世代潜水艦AIPシステムの研究」もおこなわれており、平成1822年度で研究試作、平成22年度で試験が行われたが、予測より水素吸蔵合金の技術的進展が遅滞し調達コストが高価になる見込みとなったため、事後の政策評価において「開発移行については技術進展を踏まえつつ十分な検討が必要である」と結論付けられた[6]
  3. ^ なお技術研究本部では、潜水艦初期設計等のコンピュータシミュレーション化による最適化を行う「次世代潜水艦システムの研究」(平成1720年度で研究試作、平成1921年度で所内試験)[10]や、潜水艦耐圧殻の構造様式の最適化を図る「潜水艦用構造様式の研究」(平成2527年度で研究試作、平成26~27年度で所内試験)[11][12]を行っており、その成果は本型の設計にも反映されたとみられている。

出典[編集]

  1. ^ a b 海上自衛隊 2020.
  2. ^ a b c d e f 小林 2019, pp. 192-197.
  3. ^ a b c d e 道満 2020.
  4. ^ a b c d e 高橋 2020.
  5. ^ 我が国の防衛と予算-平成29年度予算の概要- (Report). (2017). https://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/11488652/www.mod.go.jp/j/yosan/yosan_gaiyo/2017/yosan.pdf. 
  6. ^ 経理装備局技術計画官 (2010). 平成23年度 政策評価書(事後の事業評価)要旨 - 次世代潜水艦AIPシステムの研究 (Report). オリジナルの2019-08-16時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20190816220121/https://www.mod.go.jp/j/approach/hyouka/seisaku/results/23/jigo/youshi/07.pdf. 
  7. ^ 小林 2019, pp. 76-81.
  8. ^ 防衛省 2007.
  9. ^ a b 海人社 2011.
  10. ^ 平成22年度 事後の事業評価 評価書一覧 次世代潜水艦システムの研究
  11. ^ 平成24年度 事前の事業評価 評価書一覧 潜水艦用構造様式の研究
  12. ^ 平成28年行政事業レビュー 潜水艦耐圧殻構成要素の研究試作
  13. ^ 平成24年度 事前の事業評価 評価書一覧 被探知防止・耐衝撃潜水艦構造の研究
  14. ^ 平成24年行政事業レビューシート 被探知防止・耐衝撃潜水艦構造の研究試作
  15. ^ 我が国の防衛と予算-平成30年度予算の概要-
  16. ^ 平成29年度 事前の事業評価 評価書一覧 潜水艦用静粛型駆動システムの研究試作
  17. ^ 経理装備局艦船武器課 (2009). 平成21年度 政策評価書(事前の事業評価) (Report). オリジナルの2019-08-16時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20190816215401/https://www.mod.go.jp/j/approach/hyouka/seisaku/results/21/jizen/honbun/14.pdf. 
  18. ^ 矢野 2015.
  19. ^ 経理装備局技術計画官付 (2011). 平成22年度 政策評価書(事後の事業評価) - 次世代潜水艦用ソーナーの研究 (Report). https://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/11339364/www.mod.go.jp/j/approach/hyouka/seisaku/results/22/jigo/honbun/22jigo-13-2jisedaikannsuiknnyousouna.pdf. 
  20. ^ 経理装備局技術計画官付 (2011). 平成22年度 政策評価書(事後の事業評価) - 次世代潜水艦用ソーナーの研究 別紙 (Report). https://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/11339364/www.mod.go.jp/j/approach/hyouka/seisaku/results/22/jigo/sankou/22jigo-13-3jisedaikannsuiknnyousouna.pdf. 
  21. ^ 防衛計画の大綱及び中期防衛力整備計画について(パンフレット)

参考文献[編集]

  • 海上自衛隊 (2020年). “命名・進水式”. 2020年10月22日閲覧。
  • 海人社, 編纂.「潜水艦 (新中期防で建造される自衛艦)」『世界の艦船』第739号、海人社、2011年4月、 90-91頁、 NAID 40018728669
  • 小林, 正男「現代の潜水艦」『世界の艦船』第900号、海人社、2019年5月、 NAID 40021891933
  • 高橋, 浩祐 (2020年10月14日). “海上自衛隊の最新鋭3000トン型潜水艦「たいげい」が進水――旧日本海軍の潜水母艦「大鯨」が艦名の由来”. Yahoo!ニュース. https://news.yahoo.co.jp/byline/takahashikosuke/20201014-00202968/ 
  • 道満, 誠一「リチウム潜水艦にシフトした海上自衛隊 (特集 世界の潜水艦)」『世界の艦船』第921号、海人社、2020年4月、 118-121頁、 NAID 40022167799
  • 矢野, 一樹「待望の次世代潜水艦と新型潜水艦救難艦 (特集 海上自衛隊潜水艦の60年)」『世界の艦船』第821号、海人社、2015年9月、 94-97頁、 NAID 40020544384