H3ロケット

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H3ロケット[1]
基本データ
運用国 日本の旗 日本
開発者 JAXA三菱重工業[2]
使用期間 2020年度以降[3]
打ち上げ数 開発中
打ち上げ費用 約50億円[3]
物理的特徴
段数 2段[3]
ブースター 0, 2, 4本から選択[3]
全長 約63 m[3]
直径 約5.2 m[3]
軌道投入能力
太陽同期軌道 4,000 kg 以上
(H3-30S/L)[3]
500km円軌道
ロングコースト
静止移行軌道
6,500 kg 以上
(H3-24S/L)[注 1][4]
近地点高度2,700 km / 20度 / ⊿V=1500m/s
脚注
開発中のため、値は全て計画値。
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H3ロケット(エイチ・スリー・ロケット、短縮形:H3)[1]は、宇宙航空研究開発機構 (JAXA) と三菱重工業が次期基幹ロケットとして開発中の液体燃料ロケット使い捨て型ローンチ・ヴィークル。試験1号機は2020年度の打ち上げ予定[3]

概要[編集]

H3ロケットは、H-IIA/Bロケットと比較して、打ち上げ費用の削減、静止軌道打ち上げ能力の増強、打ち上げ時の安全性の向上、年間打ち上げ可能回数の増加を同時に達成して、宇宙開発における日本の自立性を確保すると同時に、商業受注で国際競争力のあるロケットを実現させるために開発される。また、年間打ち上げ可能回数の増加による産業力の維持、新規ロケット開発機会の提供による技術力の維持、老朽システムの更新も開発の目的である。2014年(平成26年)度から開発が開始され、総開発費は約1,900億円。H-IIロケットを原型とした改良開発であったH-IIA/Bと違い、H3ロケットは新しいコンセプトに基づいた、大型液体燃料ロケットとしてはH-II以来の新規開発ロケットとなる[3][5][6]

抜本的な打ち上げ費用の削減のため、日本では初めて、機体の設計・開発段階から民間企業(三菱重工)が主体的役割を果たす。また、三菱重工が開発段階から絶えず受注活動も行い将来の打ち上げ機会を確保し続けることで、従来のようにロケットを受注してから生産に取り掛かるのではなく、ライン生産方式で絶えず生産が行われるようにしてコスト削減に繋げる。ロケットシステム全体を極力モジュール化し、第1段に新規開発エンジンを採用することも含めて全体にわたって新規技術の開発をすることで部品点数の削減に努め、民生部品の利用等も行ってさらにコスト削減を進める。これらにより最小構成時の打ち上げ費用をH-IIAの半額の約50億円とする。また、射場整備作業期間をH-IIAから半減させ、年間打ち上げ可能回数を6回に増加させる[3][6]

プロジェクトマネージャーのJAXAの岡田匡史(おかだ・まさし)は、このように開発段階から運用後の商業受注による事業継続を強く意識してロケットシステムを開発することを、「技術開発」ではなく「事業開発」であるとしている[6]

「H3ロケット」の正式名称は、大型液酸/液水ロケットの系譜であることや信用度を確保するため“H”を継承すること、コンセプトをH-IIA/Bから根本的に見直したロケットであるためH-IICとはしないこと、IIと混同しない明確さと報道などでの実質的な認知度から”3”とすることを理由に決定された[3]。JAXAは正式な名称が決まるまで「新型基幹ロケット」という名称を用いており[2]、マスコミでは「次期基幹ロケット」[7]「次期主力ロケット」[8]とも呼ばれていた。

構成と諸元[編集]

主要諸元一覧[編集]

主要諸元一覧[9]
段数(Stage) 第1段 固体ロケットブースタ 第2段 衛星フェアリング
(S型)
全長 TBA 14.6 m TBA TBA
外径 5.2 m 2.5 m 5.2 m TBA
質量 TBA TBA TBA TBA
使用エンジン LE-9 SRB-3 LE-5B-3
推進薬重量 TBA 133.6 t(2本)
267.2 t(4本)
TBA
推進薬 液体酸素
液体水素
(LOX/LH2)
コンポジット固体推進薬 液体酸素
液体水素
(LOX/LH2)
推力[注 2] 2,942 kN(300 tf)(エンジン2基)
4,413 kN(450 tf)(エンジン3基)
約4,395 kN(約440 tf)(2本)
約8,630 kN(約880 tf)(4本)
約137 kN(約14 tf)
比推力 425 sec 283.6 sec 448 sec
有効燃焼時間 TBA 105 sec TBA
姿勢制御方式 TBA TBA TBA
主要搭載
電子装置
TBA TBA TBA

構成と機体識別名称[編集]

H3ロケットの構成はペイロードの重量や投入軌道により、第1段エンジンは2基か3基、固体ロケットブースタは0本、2本、4本からの選択となる。ただし第1段エンジン2基でブースタ0本、第1段エンジン3基でブースタ4本の組み合わせは設定しないため、構成は第1段エンジン3基でブースタ0本、第1段エンジン2基でブースタ2本、第1段エンジン3基でブースタ2本、第1段エンジン2基でブースタ4本の4種類となる[3][10]。第1段エンジン3基でブースタ0本の最小構成ではH-IIAの2/5の40億円で太陽同期軌道へ4トンの打ち上げが可能となる。一方、第1段エンジン2基でブースタ4本の最大構成ではロングコースト静止移行軌道へ6.5トンの打ち上げが可能となり、近年大型化する静止衛星の打ち上げにも対応可能となる[4]

この第1段エンジンの基数やブースタの本数による構成の違いは、フェアリングの大小サイズの要素を組み合わせた機体識別名称で判別される。「H3」にハイフンをつけた後ろの1つ目の数字が第1段エンジンの基数、2つ目の数字がブースタの本数、3つ目のアルファベットがフェアリングのサイズ(大小2種)となる。例えば機体識別名称「H3-24L」だと第1段エンジン2基、ブースタ4本、フェアリングLサイズの構成となる。上記4種類の構成にそれぞれ大小のフェアリングサイズが設定されることから、機体識別名称は「H3-30S」と「H3-30L」、「H3-22S」と「H3-22L」、「H3-32S」と「H3-32L」、「H3-24S」と「H3-24L」の8種類となる[10]

第1段機体 LE-9エンジン[編集]

アルミニウム合金製の第1段と第2段機体の材質、液体酸素液体水素を使用する液体燃料エンジンという基本的な構造はH-IIA/Bと共通となる[11]。第1段には新開発のエキスパンダーブリードサイクルLE-9エンジンを2基または3基使用することで、二段燃焼サイクルLE-7Aエンジンを使用していたH-IIA/Bと比べて打ち上げ時の安全性を抜本的に向上させると同時にエンジン1基当たりのコストを低減させる。エキスパンダーブリードサイクルのエンジンは、構造が単純なため低コストで安全性が高いが、原理的に大推力を発揮することが難しいため、150tfという大推力が必要とされる第1段用のLE-9の開発は、H3ロケットにおける最も挑戦的な開発要素となる[12]

また、H-IIAでは輸入だった第1段推進剤タンクドーム(両端の半球形状の部分)をH-IIBと同じく国産化してコストを削減する[11]。(UACJにて製造・提供予定)

第2段機体 LE-5B-3エンジン[編集]

第2段エンジンにはH-IIA/Bで使用されていたLE-5B-2エンジンの改良型のLE-5B-3エンジンを1基使用する[10]。LE-5B-3には、H-IIAの29号機から適用された基幹ロケット高度化開発の成果を反映させて、静止軌道打ち上げ能力を向上させる。当初は第2段に、LE-5Bの倍の28tfの推力を持つ新開発のエキスパンダーブリードサイクルエンジンであるLE-11エンジンを使用する構想もあったが[11]、挑戦的な第1段用LE-9の新規開発に専念するため見送られた[13]

固体ロケットブースタ SRB-3[編集]

固体ロケットブースタはH-IIA/Bで使用されていたSRB-A3の改良型のSRB-3を0本、2本または4本使用する[10]。推力偏向をLE-9エンジンに任せてSRB-3ではノズルの可動機構をなくす。また、H-IIA/BではCFRP製のSRB-Aの強度の問題から、SRB-Aは第1段機体とヨー・ブレスとスラスト・ストラットと呼ばれる横と斜め向きの棒状の接続部品を介して接続されていたが、H3のSRB-3では直接接続方式に変える。さらにSRB-Aではモーターケースの成形にオービタルATK社のライセンスを使用していたが、SRB-3では国産技術に切り替える。また推力パターンを変更して振動を低減させる。これら変更により、ブースタの低コスト化と軽量化が図られる[13][14][3]

またSRB-3には強化型イプシロンロケットの第2段モータのM-35に適用された新規技術のモーターケース内面断熱材の積層構造の簡素化技術やノズルスロート材料の製造方法の効率化技術を適用させる[15]。さらにM-35の技術を適用されたSRB-3の仕様をイプシロンロケットの第1段モータにフィードバックすることで、SRB-3と将来のイプシロンロケットの第1段モータの大部分を共有化させる[15][16]

フェアリング[編集]

フェアリングは、ロケットが上昇中に人工衛星などのペイロードを空気力や空力加熱から保護するために使用されるロケット先端につけられたカバーで、H3ではペイロードの大きさに合わせてS型とL型の2種類からの選択となる[10]

射場[編集]

H3ロケットの射場は、H-IIA/Bの打上げに使われている種子島宇宙センターの吉信射点を改修して使用される予定。ロケットの整備組立棟は現在のものを改修する。横置きのまま部品を組み付けた後に、起立させて組み立てられるようにすることで、起立後の整備・点検作業を大幅に削減させる。ロケットが立てられる射座は現在H-IIBが使用するものを改修する。ロケットの推進剤を貯蔵供給する設備は現在のものを流用する。ロケットを整備組立棟から射点まで輸送するとともにそのまま発射台となる運搬車輌は新造される。打上げ管制を行う「発射管制棟」は、約3km離れた竹崎エリアに移設される。点検の自動化により、打上げ当日の運用者は、H-IIAの100名から150名に対して1/3ないしは1/4以下に削減される予定[3]

打ち上げ[編集]

打ち上げ予定[編集]

2020年
2021年
2022年
2023年
  • 準天頂衛星システム5号機[17]
  • 準天頂衛星システム6号機[17]
  • 準天頂衛星システム7号機[17]
  • MMX (フォボス探査機、戦略的中型1)[17]
2024年
  • 情報収集衛星光学多様化1号機[17]
2025年
  • 情報収集衛星光学9号機[17]

開発略年表[編集]

2011年度より、第4期中期計画(2018 - 22年度)中の試験機打ち上げを目標として研究が進められた。

2012年
  • 5月10日 JAXAの理事長立川敬二は、新型基幹ロケットを2018年から2022年までに打ち上げたいと語り、実用化に向け開発への強い意欲を示した[7]
  • 12月13日文部科学省科学技術・学術審議会の研究計画・評価分科会宇宙開発利用部会が本機を開発する方針を決定した。開発に当たっては、管制施設の簡略化などにより新型基幹ロケットの打ち上げコストをH-IIAロケットと比べて半減させることを目指すとした[18]。この方策の取りまとめでは、ロケット開発の技術基盤・産業基盤の継承が困難となりつつある状況と、その結果として将来的にロケットの新規開発や既存ロケットの円滑な運用が困難になる恐れについても触れられている[18]
2013年
  • 5月28日、内閣府宇宙政策委員会の宇宙輸送システム部会の第6回会合で、2014年度に新型基幹ロケットの開発を始めることを決定した[19][8]
  • 5月30日、宇宙政策委員会第15回会合で、この宇宙輸送システム部会の決定が了承され、新型基幹ロケットの開発の方針が決定した[20]
  • 6月4日、平成26年度宇宙開発利用に関する戦略的予算配分方針(経費の見積り方針)(平成25年6月4日 内閣府特命担当大臣(宇宙政策)から関係閣僚に対して通知)において、新型基幹ロケットの開発着手を決定した[2]
2014年
  • 1月、JAXAでミッション定義審査(MDR)を実施[2]
  • 3月25日、三菱重工業が開発主体に選定された[2]。新型ロケット機体の設計・開発段階から民間企業が中心的役割を担うのは初めてとなる。
2015年
  • 4月9日、文部科学省科学技術・学術審議会の 研究計画・評価分科会宇宙開発利用部会でシステム定義審査(SDR)の結果を報告し了承された[3]
  • 4月23日、内閣府宇宙政策委員会の宇宙産業・科学技術基盤部会で概念設計フェーズから基本設計フェーズ(開発フェーズ)への移行が了承された[3]
  • 7月2日、文部科学省科学技術・学術審議会の 研究計画・評価分科会宇宙開発利用部会で「H3ロケット」という正式名称と第2段エンジン1基の形態が了承された[10]
2016年
  • 4月、JAXAでロケット総合システム基本設計審査(PDR)を実施し、詳細設計フェーズへの移行は可能と判断した[9]

脚注[編集]

注釈[編集]

  1. ^ 比較対象のH-IIA204の能力値がロングコーストのものであるため、H3の能力値もロングコーストのものと分かる。
  2. ^ 第1段と2段は真空中推力、固体ロケットブースタは平均推力。

出典[編集]

  1. ^ a b “新型基幹ロケットの機体名称決定について” (プレスリリース), JAXA, (2015年7月2日), http://www.jaxa.jp/press/2015/07/20150702_h3_j.html 2015年7月2日閲覧。 
  2. ^ a b c d e “新型基幹ロケットの開発及び打上げ輸送サービス事業の実施事業者の選定結果について” (プレスリリース), JAXA, (2014年3月25日), http://www.jaxa.jp/press/2014/03/20140325_rocket_j.html 2015年7月2日閲覧。 
  3. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p 新型基幹ロケットの開発状況について (PDF)”. JAXA (2015年7月2日). 2015年7月2日閲覧。
  4. ^ a b 宇宙政策委員会 第45回会合 議事次第 参考資料 平成27年度補正及び平成平成28年度予算案の宇宙関係予算について(省庁別事業概要)p9, 通算p28 (PDF)”. 内閣府 (2016年2月3日). 2016年2月22日閲覧。
  5. ^ 新型基幹ロケット「H3」の挑戦 1/5”. 株式会社マイナビ (2015年7月15日). 2016年2月20日閲覧。
  6. ^ a b c 新型基幹ロケット「H3」の挑戦 2/5”. 株式会社マイナビ (2015年7月22日). 2016年2月20日閲覧。
  7. ^ a b “次期基幹ロケットH3、22年度までに打ち上げ-JAXA理事長”. 日刊工業新聞. (2012年5月11日). http://www.nikkan.co.jp/news/nkx0720120511eaai.html 
  8. ^ a b “次期主力ロケット「H3」、民間中心で開発を決定”. 日本経済新聞. (2013年5月29日). http://www.nikkei.com/article/DGXNASDD280QQ_Y3A520C1TJ2000/ 2013年5月29日閲覧。 
  9. ^ a b H3ロケット基本設計結果について (PDF)”. JAXA (2016年6月14日). 2016年6月21日閲覧。
  10. ^ a b c d e f H3ロケットの開発状況について (PDF)”. 文部科学省 宇宙開発利用部会 (2016年2月2日). 2016年2月18日閲覧。
  11. ^ a b c 詳説H3ロケット開発スタート -(3)ロケット機体の技術-”. 宇宙エレベーター協会 (2015年7月18日). 2015年7月19日時点のオリジナルよりアーカイブ。2017年2月20日閲覧。
  12. ^ “魔物”のロケットエンジン、LE-9開発に挑む H3プロジェクトマネージャー、JAXAの岡田匡史氏に聞く(その2)”. 日系BP社 (2015年10月5日). 2016年2月20日閲覧。
  13. ^ a b 新型基幹ロケット「H3」の挑戦 5/5”. 株式会社マイナビ (2015年8月24日). 2016年2月20日閲覧。
  14. ^ JAXA、新型基幹ロケットの概要の最新版を発表 エンジン、射場などに変化”. sorae.jp (2015年4月19日). 2015年7月2日閲覧。
  15. ^ a b イプシロンロケット H3ロケットとのシナジー対応開発の検討状況 (PDF)”. JAXA (2016年6月14日). 2016年6月24日閲覧。
  16. ^ 新しく生まれ変わったイプシロン…「強化型」では何が変わったのか”. 株式会社マイナビ (2015年12月22日). 2016年2月20日閲覧。
  17. ^ a b c d e f g h i 宇宙基本計画工程表(平成28年度改訂案) (PDF)”. 宇宙開発戦略本部 (2016年12月13日). 2017年6月1日閲覧。
  18. ^ a b 文部科学省における宇宙分野の推進方策について (PDF)”. 文部科学省 (2012年12月). 2015年7月2日閲覧。
  19. ^ 宇宙政策委員会 宇宙輸送システム部会 開催状況”. 内閣府. 2016年2月20日閲覧。
  20. ^ 宇宙政策委員会 開催状況”. 内閣府. 2016年2月20日閲覧。